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第5回ソフトマター工学分科会講演会・会員総会

    2020年11月27日(金)に第5回ソフトマター工学分科会講演会および会員総会をオンラインで開催しました。例年は7月に開催していましたが、今年度は開催予定であった東京オリンピックと時期をずらして秋に開催することにしました。しかし、昨年計画した時には、予想もしていなかった新型コロナウイルスル(COVID-19)の感染拡大を受けて、当初の計画を大幅に変更し、規模を縮小して第51回秋季大会でも利用した、化学工学会のプラットフォームを利用してオンラインで開催しました。今回は「ソフトマテリアルの自己組織化」をテーマとして3名の先生方にご講演をいただきました。オンラインにも関わらず学生6名を含む22名のご参加をいただき、質疑応答では、オンラインのシステムを使って多くの質問がなされ、活発な議論が行われました。

   主催者挨拶に続いて最初に同志社大学の山本大吾先生より「化学反応によって誘起される自走性触媒粒子の集団運動」という題目で講演が行われました。バクテリア、ゾウリムシなどのミクロな単細胞生物が、魚や鳥のような高等な動物と同様に自律的な運動を行うことができ、集団の場合には、コロニーとして知られる幾何学パターンを形成することに着目し、自然界ではありふれている自発運動をより単純な人工系で再現し、生物模倣的なモデル系を確立することを目指した報告が行われました。本報告では、二次粒子径が数µmの白金触媒粒子サスペンションを用いて白金粒子の凝集体がエタノール水溶液中で集団移動する様子やアセトアルデヒド中で同期運動する様子を動画を用いて解説されました。また、粒子の集団運動を仕事やエネルギーとして取り出す試みについても報告されました。
   次に京都大学の大野工司先生より「ポリマー修飾粒子の自己組織化」という題目で講演が行われました。濃厚ポリマーブラシとよばれる高分子組織体を微粒子表面に付与できることになったことがブレークスルーとなった、微粒子表面開始グラフト重合を用いた先生の機能性微粒子の合成と応用に関する最近のご研究を紹介いただきました。最初に準ソフト系コロイド結晶の研究例としては、ポリメタクリル酸メチルブラシを付与したシリカ微粒子(PMMA-SiP)の分散液がその濃度によって準ソフト系コロイド結晶を形成し、グラフト鎖の分子量によりコロイド結晶のfcc型配列の存在分率αが3つの領域に分けられ、分子量の増加に伴いαも増加し、高分子量領域では、完全にfcc配列を取ることが報告されました。また、ポリマーブラシ付与複合微粒子フィルムの研究例では、ポリマーブラシ付与複合微粒子をトルエンに分散させた液を60℃で乾燥させてフィルムを形成する際に、グラフト鎖長の異なる2種類の微粒子を混合して、アモルファス構造の構築による構造色の発現の報告がありました。その他にも二成分系コロイド結晶の構造解析やポリマーブラシ付与異方性粒子の合成とその高次構造の制御に関する研究をご紹介いただきました。
   最後に同志社大学ハリス理化学研究所の彌田智一先生より「テンプレート材料化学:ナノポアとマイクロコイル」という題目で、高分子ミクロ相分離のナノ規則構造と微生物の3次元形状をテンプレートとした材料化学に関する研究成果をご報告いただきました。まず、両親媒性液晶ブロックコポリマー(lBC)の開発とこれをテンプレートとする金属、酸化物、ポリマーなど異種材料のナノ規則構造の作製や基板表面のナノ加工を報告していただきました。ポリオチレンオキシドからなる垂直配向シリンダー構造を水やイオンや極性分子などの輸送チャネルに利用した透過膜について、膜作製時のワンコート多層化では異種液晶ブロック子ポリマーの混合溶液から成膜と熱アニールを繰り返すことで多層膜を形成することに成功したこと。また、量産可能なlBC膜の例としてポリスルホン非対称膜を多孔性支持基盤(PoS)にした場合にアルギン酸ナトリウム水溶液を前塗工することによってポリスルホン多孔質構造の有機溶媒耐性と表面平滑化を行なったlBC/PoS複合膜の作製法が紹介されました。次に、微生物をテンプレートとする、材料合成「バイオテンプレート法」の研究例としてらせん藻類を鋳型とする金属マイクロコイルの合成方法が紹介されました。円筒型(6- 7 µm径、2-3 µm 高)の藻類スピルリナ表面に銅を無電解メッキして作製する金属マイクロコイルの生産法と、銅マイクロコイルとパラフィンから鋳型を使って作製したマイクロコイル等方分散シートの電磁波吸収特性について報告がありました。
   講演後のオンラインディスカッションでは、聴衆から講演者への追加質問や自己組織化とソフトマター工学に関する意見交換が行われました。オンライン講演会なので、講師が使われた様々な電子顕微鏡写真の印象が強く、山本先生の触媒粒子が集団運動する様子、大野先生のポリマーブラシを付与した中空ロッド写真、彌田先生の大量の銅マイクロコイルの写真など、無機材料が微生物のように見える写真についての質問が多かったです。
   また、講演会終了後に、オンラインで懇親会を行いました。初めての試みでしたが、講師の先生と参加者の間で様々な意見交換が行われました。